Tourde 安部峠 2010(2010.10.10)
前日から降り続く雨は近隣市町に大雨警報をもたらし、当市にも大雨注意報が発表された。午前4時起きの横地さんが軽四のライトバンで迎えに来てくれ、降りしきる雨、一向に止む気配のない雨の中、受付の梅ヶ島コンヤの里へ向かう。 Team GT2から横地、兼高、半田の3名がエントリーした。兼高さんはどうしたんだろうか?携帯でコールする。呼び出しているが出ない。横地さんの有料ウェブサイトでは静岡市北部は昼過ぎまで60〜70%の降雨・・・、これ当たるからねぇと「こんな雨じゃ、やんないよ。やりっこないよ。中止だよ。兼高君は中止と思い寝ちゃってるよ・・・。」体重の軽い横地さんだが、言葉にはいつも重みがある。勝手な想像に私も同感していた。会場までの45km程の道のりに車両と擦れ違うこともなく、エンジンだけは切なそうに唸り音を発していた。 5時45分、会場に到着。止みそうにない雨は小雨から霧雨になりつつ、山々のもやは上昇し緑色を呈する。スタッフに「やりますか〜?」の軽いノリに「やります!!」と何とも力強い声は心に響き過ぎだぞ。エントリー用紙に、“原則:雨天決行”と記載されていた。・・・納得。 そんな中、試走する兼高さんと出合う。既にレーススタイルで、いつでも走れるぞの意気込みが伝わって来る。おっ、バイクも新車で本人も調子良さそうだ。 ツール・ド・安部峠2010の大会概要は、16世紀後半の戦国時代、甲斐の武田氏、駿河の徳川氏が安部峠を挟んで身延町の湯の奥金山と、静岡市の梅ヶ島、日影沢金山の領有をめぐって争ったという歴史的なつながりを検証し、両地域の活性化を図ることを目的として今回、自転車でのヒルクライムレースとして生まれ変わり、静岡市と身延町の2箇所から同時刻スタートし安部峠頂上のゴール(標高1450m)を目指すという全国で初めてのレーススタイルを強調していた。 競技内容は2コースで静岡市側13.8km・高低差890m、身延町川12.6km・高低差1010m、金山争奪戦については上位10名の合計タイムで勝敗を決定、参加人員は両市町ごと先着順で100名。それでも静岡市側で40名が棄権していた。そんな中、特別招待選手として日本競輪選手会静岡支部からS級、A級の選手5名が参加し、大会を盛り上げてくれた。スタート30分前から開会式のセレモニーが行われ、副市長、市会議員の方々から完走目指して頑張ってコールをいただく。実行委員長の挨拶に、この道路を国道に昇格させ、願わくばこの山の下、身延町との間にトンネルを通したいと壮大なロマンをも語る。また残念なことに身延側の降雨量が規定を超えたため出走は中止となった。スタート順番はゼッケン番号順に10名を1グループとして1分間隔でスタートする。 8時00分、第1グループの選手達が勢いよくペダルを踏み込み既にダンシングである。 第10グループが出走するのは10分後で皆それぞれの思いを込めて、13.8km先の頂上に思いを馳せて行く。 梅ヶ島の手前までは緩やかな上り坂が続く。まもなく兼高さんが声を掛けて追い抜いて行く。調子は良さそうだ。バイクも軽そうだ。付いて行きたいが力不足だ。そして横地さんが来た。いつもの横地スタイルでダンシングして行く。年齢を増して尚、衰えを知らない体力は驚異的な65歳に青春を見た。 温泉街の朝は人もまばらで数人の人達がエールを送ってくれるが、コクリと頭を下げて返すのが精一杯。いよいよ此処からがヒルクライムの始まりだと自分に叱咤する。路上のところ所は水が溢れ出て道路を横断している。滑りやすく危険だ。気が抜けない。急坂な1kmは非常に長く感じる。それでもひたすらゴールを目指してペダルを漕ぎ続けると安部七滝の一つ恋ヶ滝が現れる。昔から悲恋伝説のある滝とか・・、巨岩の間を水しぶきが荒々しくも優雅に縫って流れ落ちる様は、人生の怒涛を感じさせ優しく癒されるが、いま感動に浸っている時間はない。途中何ヵ所かの激坂が立ちはだかる。その都度ダンシングして立ち向かう。叱咤する山坂を上へ上へ、前へ前へと進む。時折、前後に選手の姿は全く見えなくなり、静寂した山々に自分の荒げた呼吸音だけが響き渡る・・・。たった一人の練習会かと思わせる。メーターは時速6kmを指していた。やがて緩やかな路面に戻る。前方にゴールの横断幕が見えた。県境1450mに飛び込んだ!!終わった!! 交流イベントは、2km程下った身延町の駐車場が会場となり、身延町民も駆け付け、ゴールした参加者らとともに両市町の食材を使った「合戦鍋」を食べて交流を深めた。 優勝者のコメントは、景色がきれいで気持ちよく走ることができました。・・・だって。それで42分55秒は凄い! 凄かった人はもう一人いた。おにぎり、パン、合戦鍋とまんじゅうを胃袋に入れ、尚2コ入りおにぎり4パック、みのぶまんじゅう1箱と、山盛りに積まれていた同じまんじゅう20コを土産にと持ち帰った家族愛を基本としている兼高さんは、ヒルクライムしながら食料調達に参戦したのだろう。 7月、Team GT2井川合宿での井川林道〜笠張峠〜富士見峠、帰路R362千頭〜杉尾の激坂。 8月、静岡トライアスロンクラブ河口湖合宿、河口湖までの100kmバイク、富士宮の長い長い上り坂、あの体験が甦る。経験とは、時に年齢に関係なく、人に勇気、希望、自信をもたらしてくれる。経験に優る才能なしか。努力、練習をしない怠け者の私が皆さんのおかげで、こうして活かされ、感動を得ていることに深く深く感謝します。わたしのまわりにいる人たちはみんな、よい人ばかりです。・・・ありがとう、みんな。 すがすがしい気持ちで下山する安部峠、紅葉に色付くにはまだ早き奥深き、安部の山々も、記念Tシャツの鮮やかなオレンジ色のようにやがて染まるであろう。 ありがとう、共に戦った仲間達。ありがとう、安部峠!! 半田二三男